おおむらさきの日記

読書と映画、生活いろいろ日記

【読書】「ベトナムの風に吹かれて」(小松みゆき著) 【めちゃくちゃいい】

ベトナムの風に吹かれて』読んだよ日記です。

映画の原作。

映画はまだ観ていないのですが、

このエッセイ、めちゃくちゃ良いです。

 

 

 

2001年12月、日本語教師の筆者は、新潟で暮らす81歳の母、Baちゃん(要介護3)をベトナムハノイに迎えて同居生活を始める。

…ここまでで結構びっくりしますよね。

ベトナムで介護?と。

でも、これが本作の始まり。

 

パスポートを取るのも一苦労で、そもそも田舎の親戚からは反対されていて…

と、なかなか一筋縄ではいかないのだが、

筆者は父(102歳で他界)の死から2か月ほどで着実にやるべきことを遂行していく。

母と二人幸せになるために。


無事ベトナムに着いてから(←ここまででもう既に読み応えがある)、

ベトナム人、現地に住む日本人、様々な人との関わりがあり、助けてもらいながら母との暮らしを営んでいく。

お母さまが雪国から解放されてのびのび生活している様子にこちらまで嬉しくなる。

認知症ともあって、なぜ自分がベトナムにいるのか時々わかっていないような場面もあるのだが、それでも幸せそうで、それを見るお嬢さんである筆者も嬉しそうで。

このエッセイはベトナム暮らし×海外介護」が主な軸としてあるのだと思うけど、それだけじゃない。


「婚家からの解放」

「戦争によって壊されたもの」

認知症も異文化として捉える」

 

などといった事柄もエッセイの中で語られていて、とても興味深い。

特にこの「婚家からの解放」はこの本のもう一つのテーマではないだろうか。

実はこのエッセイは、力をつけた娘が異国の地で母を幸せにするという、

パワフル・エンパワメント・フェミニズム物語なのだと私は勝手に解釈しています。


1945年5月、戦争末期に21歳年上で6人の子持ちの農家に嫁いだBaちゃん。
大正9年生まれの母のこれまでの人生の断片が、ベトナムで語られていく。

雪国の農家…その嫁…。

21歳歳上の夫…6人の先住する子ども…。

そして新たに生まれた自分の子ども。

筆者も、自分の家のことでもあるし、親戚もいるだろうし、表現は抑制的になっていると思う。別に悪い感情があるわけでもないのもわかる。それでも、Baちゃんの置かれていた状況や筆者の気持ちをすぐに理解できた気がした。

筆者がなぜ海外で介護をしたいと思ったのか。

これは私が女だからだろうか。家制度の下で生きるしかなかった母や祖母、もっと古い女たちの存在を知っているからだろうか。

Baちゃんを始めとする、当時の女性の困難に想いを馳せることしかできない、読者のわたしです。

 

ベトナムの風に吹かれて」という本のタイトルも、読み終えてさらに味わい深い感じがしました。

 

 

 

そして、認知症
認知症とはいえ、いろんな瞬間で昔のものごとを思い出す時がある。そして娘である筆者もそれを丁寧に受け止める。
「この病気をあなどってはいけない。上手に付き合えば、記憶の引き出しからもっと宝物が出てくるかもしれない。」

という筆者の言葉が印象的でハッとさせられる。

筆者の考える、

認知症も病ではなく、異文化として捉えたら面白いかも」という認知症への眼差しは、日本語教師としてベトナムに住み、異文化と真摯に向き合っていたからこその発想なのではと思う。
Baちゃん失踪事件もあってハラハラするのだが、探し回った挙句、ニッコーホテルに無事「届けられて」いたりとちょっと笑える。

大変な事件ではあるのだろうが、Baちゃんの海外介護にはどこかカラッとした感じが漂う。

これが日本だったらもっと深刻さを帯びて、ウェットな感じになってしまうような気もする。

認知症というだけで、日本の田舎では厄介者扱いされていたが、ベトナムではちょっとしたアイドルのように愛されたり、癒しの存在となったりする様子にはほのぼのとする。

海外エッセイとしてベトナムの香りを感じられるだけでなく、人生の締めくくりを迎えた81歳の女性の独立&ベトナム見聞録の話でもあるし、とにかくめちゃくちゃ面白い。唯一無二のエッセイでは?と思っています。

 

著者の他の本もぜひ読んでみたい、と思わされる一冊。映画化した人、本当センスあると思う。(何様だい)