『趣味で腹いっぱい』読んだよ日記です。
ドーン!と自分の価値観を覆される、という感じではないが、淡々と揺るがされている感じ。はっ!と気づかされるのではなく、ふと、気づかされる感じ。
相変わらずというか、ちょっと不思議な感覚の読書だった。
きちんと対話しあいながら生活を営む夫婦のゆるふわでほんのりとした世界観の小説、
としても読めるけど、ストーリー仕立てでありながら(←小説だから当たり前だけど)、
実のところ有用性について(そのジェンダーも絡ませながら)読者に問うような、実験的な小説だと感じた。
とはいえ説教臭さは全くなく。
その上心穏やか〜な読後感も味わえるのに、気づいたら自分の先入観を見事に揺るがされている、という、なんだかちょっと本当に不思議な読書体験。easy to readなんだけど、自分の中で、一筋縄に終わらない感じがある。
ナオコーラ氏の本は『ベランダ園芸で考えたこと』と『反人生』を読んだことがあり、どちらも印象的な本だったが、今回もそうだった。
そしてそれらと共通して偏在していると感じたのは、”役に立つ” ということへの問い。
それは、”ただ生きていていい”みたいなメッセージだとも感じた。
仕事をしなくても、子どもを産まなくても、役に立たなくても、生きてていいじゃん。と。
レビューなんかを見ていると、
仕事をせず、趣味に生きる鞠子に
読者から「共感できない」「甘えてる」「イライラする」といった感想が生まれるのは「働かざる者食うべからず」という共通認識がある社会ではまあ、当然のことなのかもしれない。
ただ、そこで終わらせないで、「なんで鞠子にイラつくんだろう」とふと考え始めたとき、ナオコーラ氏が問いかけている”何か”に対する思考が始まる気がする。
私は鞠子、嫌いじゃない。飄々としているようでゴリゴリに揺るがない感じ、羨ましい〜〜とすら感じる。
実験のように始まった結婚生活は穏やかにつづき、そのなかでぽつぽつと繰り出される「名言」の数々が良いです。ナオコーラ氏みたいな作家がいるの、マジでありがてえな〜とかふと思う。
しんぶん赤旗で連載されていたと言うが、赤旗ってこういうの連載してるんだ!と驚きつつ、なんか納得である。
文庫化されて改題されているようです。